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December 30, 2004

そいつは最高

 

 バイト前に毎朝通っているドトールの窓からは、こんな看板が見える。スヴェンソン。
それが何の会社なのか知らないけど、僕はそのやる気のなさそうな看板と、無駄に
スウェーデン人みたいな響きが気に入っている。スヴェンソン、おはよう。お互い朝は
眠いよな。相変わらず、君の母国は虫歯の人が少ないのかい?
 
 裸足のままでいく 何も見えなくなる
 振り返ることなく 天国のドア叩く

 世の中には、トイレの個室になにやら意見を書きたがる人がいるようだ。僕はいつも
こう思う。「で、君はなぜにマジックを持ってる?」
 大抵の場合、それは性的で稚拙な芸術であったり、極めて男性的な妄想であったり、
無意味な個人情報――暇だったら090-8763-6098にTELして――であったりする。そ
の日、僕がそこで目にしたのは、どこかの誰かの悲痛なまでの社会への叫びだった。

 クラフト・ワークは不◆良物件ばかり売っている

 クラフト・ワークの人事担当◆者死ね

 クラフト・ワークのような詐欺会社に気をつけろ

 なるほど。じゃあ僕も気をつけよう。ちなみに◆の部分は、これを書いた人が字を間違
えて塗りつぶしたところ。ついでに言うと、この人は最後の「気をつけろ」のところも間違
えていて、いちどは「気をつける」にしてしまい、それでは自戒の言葉になってしまうこと
に気付いたらしく、そのあと「る」の下の丸い部分を塗りつぶして「ろ」に直していた。
 この人はよほど興奮していたのか、あるいはものすごくご立腹されていたか、ちょっぴ
りクレイジーだったりするのか、とにかくそのどれかだと思われる。お気の毒。

 僕のバイト先には朝の朝礼みたいなのがあって、これをやっている間、僕を含めたみ
んなは眠いので聞いているふりをしている。必要な情報はWeb上にアップされるので、
べつに聞いていなくてもあとで確認できるという仕組みだ。無駄なパフォーマンスと遭
遇。どうです? 我が社はきちんとしてます。そんなきちんとした会社に属している僕
は、朝礼中は窓の外を眺めることにしている。見下ろす世界には、「この人たち、みん
な仕事に行くんだ。すごいな」ってくらいの人々が動き回っているのが見える。かなり
高いところから見下ろしているので、正確には人というより点にちかい。色がついた点。
それぞれの日々にはそれぞれの色があるというわけだ。上から見ると、僕の日々は
何色なのだろうと思う。

 ときどき、音楽を聴いているだけでほかに何もいらないと思うことがある。音楽をやって
る人って素敵だ。そして幸せだと思う。言葉が違う国で、まったく見知らぬ人が自分の音
楽を聴いている。これってすごいことだ。だけどそれは、ものすごく狭き門だと思われる。
 先日、“最高にやる気ないトリオ”のひとり、芸人の彼と会話をしていたとき、こんな話
題になった。

「俺たち、いつまでバイトする気なんだろう?」
「俺は今年一年やってダメだったら、群馬へ帰ります」
「群馬ってどんなところですか?」
「緑が多い」
「へえ~」
「東京はあんまり好きになれないなあ。芸人目指してなかったら、
東京きてないですもん」
「俺、東京しか知らないからわからない。東京も木ありますけど。
ほら、あそことか」
「あんなの緑じゃないですよ」
「そうなんだ。へえ~。はぁ、俺も群馬行きたいなあ」
「duzzさんも一緒にきますか?」
「都落ちブーム到来」
「だって、今まで俺たちいろいろバイトしてきたじゃないですか?
で、バンドとか役者やってるヤツ、たくさん出会いましたよね?」
「はい、相当な数出会ってます」
「その中で、ひとりでも成功して食えているヤツっています?」
「……いないっす」

 そう、ひとりもいない。そいつは最高。

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