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1 post from August 2006

August 19, 2006

ヘルペスの悲劇


 ヘルペスができた。

 ここ一週間くらいどうにもニキビが治らないと思い、皮膚科に行ってみたところ、「こり
ゃニキビじゃなくてヘルペスだよ」と診断される。ヘルペス。どことなくギリシャ神話的
な響きだ。そして、哀しげでさえある。短剣で自分の心臓を貫いたヘルペス。妻を溺愛
し、その美しさを保とうと殺して剥製にしたヘルペス。語呂がいい病名発見。医師から
はヘルペスは体が弱っているというメッセージなので、よく休むようにと言われる。おそ
らく僕はこの世の「よく体を休める序列」の中でかなり上位に名を連ねていると思われ、
これ以上どうやって休めばいいのかよくわからなかったが、医師の発言なので盲目的
に信用することにした。ついでに直射日光に当たりすぎるとよくないとも言い足される。
ルーマニアの城でも間借りしたほうがいいのかもしれない。でも、僕は血があまり好き
ではない。幼い頃、注射で血を抜いた医師に「僕の血を返せ!」とか言いながら襲い
かかった遍歴を持つくらいの男だ。今でも当時の彼の気持ちは理解できない。まあた
ぶん、ひどく若かったということなんだろう。

 塗り薬を処方してもらう。薬の説明書には「ウイルスによる感染症の治療に用いる塗
り薬」と書いてあった。ウイルス。そういう時代だ。どことなく世紀末的な響きですらある。
レミング病じゃなくてよかった。この病気の詳細は「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」参照。
僕にとって青山真治は、「ユリイカ」以外はいいと思った映画がないのに、なぜか見てし
まう監督として分類されている。まあいいや。とにかくウイルスだ。ちなみにウイルスを
辞書で引くとこのような説明をしてくれる。

ウイルス=生物と無生物の中間形とされ、大きさは20~300ナノメートル。外殻はたん
ぱく質からなり、内部に遺伝子のDNAまたはRNAを含む。単独では生命活動を営めず、
生きた細胞に寄生して生活・増殖する。濾過性病原体。バイラス。ビールス。

 なるほど。今の僕は寄生され、ついでに生活して増殖されているわけだ。礼金くらい
徴収するべきなのかもしれない。でも、噂によると礼金制度は日本だけで行われてい
る悪しき習慣であるらしい。ほとんど死語になりつつあるグローバルな視点で考えれ
ば、ウイルスだろうと礼金を徴収するべきではないような気がする。タダ住まいの佇ま
い。近いうちに殺すけど。塗り薬で。大家ご立腹政策。

 そんなわけで本日は、顔にヘルペスの悲劇を背負いながら出勤した。ヘルペスでも
アイスコーヒーを飲んでトーストを食べた。今年はここまで例年にないほど過ごしやすい
夏で、このまま暑い日が続かなければいいなと思う。そろそろ九月になる。また一年が
終わる。ラークが三百円になっても僕の喫煙量は変わらない。職場からは親しい友人
たちが去り、適度な悲しみに包まれていく季節でもある。


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