« March 2007 | Main | October 2007 »

April 2007の2件の記事

April 25, 2007

短めに現状報告

 

 少しは仕事を増やしてみたいと思った。去年の暮れくらいに。世の中の職業事情で言えば、僕は恐ろしいほど自由時間があるタイプの生きものだったから。息がつまらない程度にはつづけて仕事があればいいなと。息がつまらない程度というあたりが、僕という人間の本質を表している気もするけど、とにかくまあ、それなりに仕事を増やしてみたかったわけだ。去年の暮れからこの四月までに、新しく仕事をくれた会社が3社。継続的に仕事をもらえるかどうかは別問題としても、それなりに悪くない成果なのかもしれない。だから、僕はまた売り込みの電話をかける。

 10割バッターの方は相変わらずで、おそらく僕らは悪くない時間を過ごしている。よく晴れた日には公園で横になって八重桜を眺め、雨の日にはカフェで向かい合ってコーヒーを飲んだり、恋人の部屋で音楽を聴いたりしている。ふたりともテレビに興味がないから、その箱から音声が流れることはほとんどない。煙草を吸いにベランダに出ると、背の低い住居がいくつも並んで見えて、大通りからは車の排気音が聞こえてくる。僕らは並んで街を見下ろし、「いい天気だ」とか「ちょっと寒い」とか「風が気持ちいい」とか当たり前の感想を述べて、その日一日がはじまったことを確認する。

 誰かと一緒に時間を過ごすうえで重要なのは、どうでもいいことと大切なことの感覚が近いことではないかと思う。それが近ければ、長く一緒にいても我慢する必要がないし、ストレスを感じることもない。僕らの関係性は秘密裏に進行しているので、普段の僕はまるでなにごともなかったように振舞っていたりもする。こういうことを書けるのもこのブログだけでmixiには書けない。いくらか面倒だなと感じることもあるけど、しばらくはこれでもいいかなと思っている。そんなわけで、海外で活躍する天才バッターのようにはいかないけれど、いまのところ僕らのボールはまだ緩やかに高く飛びつづけている。

 最後に隣のガキについて。小学生の頃からなんとなく成長を見守ってきた隣のガキは気がつけば高校生になっていたが、今日はマンションの通路で女の子を連れていた。それはどんなにがんばっても中1にまでしか見えず、ほぼ間違いなく小学生だと思われる女の子だった。エレベーター前で僕に挨拶したガキは、帰っていく小学生みたいな女の子に「またあとでね」と笑顔を向けていた。またあとで会うらしい。ふたりの関係性がひどく気になる。大丈夫なのか? 隣のガキ。

 

| | Comments (4)

April 03, 2007

帰ってきた10割バッター

 

 この春、僕は10割バッターになった。比喩的に。簡単に言えば、チャンスを見送るのをやめたということだ。いいボールが見えているのになぜ打たない? そう、僕は長らく見送り専門のバッターだった。打席には立つ。でも打たない。いいボールだ、それでも見送ろう。6割。うん、やっぱり見送っても平気じゃん。5割。くり返し。そんなふうにして自ら感情を抑えて打率を下げるのを得意技としていた。そういう意味では選球眼だけはやたら鍛えられた。これはいいボール。これは悪いボール。これはストライクと思わせておいてボール球。これはクセ球だけどじつは素直なボール。その他いろいろ。

 僕のバッティングポリシーは、「我慢ができるなら振るな」だ。本当にいい球であるのなら、無意識的に振りにいくはずだと。そして、僕は自分がフルスイングにいくとどうなるかをよく知っていた。まず、今までのように自分をコントロールできなくなる。普段が淡白キャラであるだけに、そいつが非常に腹立たしい。だから見送る。そんな自分を見たくないから見送る。そうすれば、僕はまた平穏でいられるというわけだ。

 そういう性質だけに、むしろ低い打率で手を打ったほうがいいのではないかと考えたこともある。でも、6・7割の打率で振りにいったところで、その後の打率が安定するのかどうかも疑問だった。もちろん上がるかもしれない。でも、一気に下がるのかもしれない。さっさと試合終了になる可能性があるなら、振りにいかないほうがいい。それはおそらく時間の浪費だし、どちらかが、あるいは両方が負傷するだけだから。我慢ができるのなら振らない。これはおそらく僕が歴史的失恋から学んだ人生哲学であり、自分の身を守る術であったのだと思う。

 いつからだったのか正確にはわからないけど、僕はまた打席に立っていた。困ったことに、今回のボールはとてもいい球だった。スイングした後のボールの軌道がイメージできるくらいに。もし僕に巧く打つことができたのなら、こんなふうに飛んでいくんだろうなと。それは高く長く飛びそうに思えた。打席に立って、そこまでイメージできることなんてなかなかない。だから僕は迷った。迷っていながら、打席に立っていることが心地良いことに気づいた。この時間を失いたくないのであれば、あとは振りにいくしかない。だから僕は自分と正面から向き合った。そこから都合のいい嘘を排除した。はっきり言って、僕はたいしたバッターじゃない。ほかの人から見れば退屈な試合なのかもしれない。きっとそうなんだろう。

 それでもこれは、ほかの誰でもなく僕らの試合だった。もはやこのまま見送りを続けることはできないように思えた。失う前から気づいているのに、失ってからそれをやっと認めるなんてうんざりだった。僕はすでに無意識的に振りにいきはじめていて、ひどく中途半端なフォームになりつつさえあった。このままいくとバランスを崩してしまいそうな気がした。どうせ自分をコントロールできなくなるのであれば完全に打ちにいったほうがいい。たとえ、巧く打てなかったとしても。

 その日、打席に立った僕は、自分のなかに眠っていた情熱を呼び起こしてフルスイングをした。素直に。ストレートに。観客は誰もいなかった。僕ら二人だけだった。打撃は柔らかな和音を響かせて返ってきた。それは僕の求めていた音だったと思う。その瞬間、たぶん僕は前より幸せになった。

 10割バッターがフルスイングをして、僕らのボールは飛びはじめた。着地点がどこになるのかわからないけど、高く長く飛んでくれればいいなと思っている。

 

| | Comments (0)

« March 2007 | Main | October 2007 »